疲れた夜にはチャイナが合う

緊急事態宣言が出ている間は、と始められたリモートワークがすっかり定着したころ。毎月訪れる仕事のピークを迎えると、朝から飲まず食わずで空がすっかり暗くなっていた。出社していれば息抜きに誰かと話したり、コンビニに行ったりしたんだろうが。在宅だと、心も体も荒んでいることになかなか気づけない。

夕食をつくるのもつくってもらうのも気が引ける、でも外食をしてもいいんだろうか、とウジウジ恋人に告げる。してもよいか、よくないのか、そんなの自分で決めたらいいのにそんなこともできない自分が情けない。そんなしょぼくれたわたしの手を引いてくれるのは、いつだって恋人だ。

 

数ヶ月前にオープンした駅前の中華料理店。正直店舗の外観はかなりチープで、外からでも大きな中国語が飛び交っているのが聞こえ、味も接客も期待していなかった。でも、いつも満席だったことに興味をひかれ、一度入ってみたらそれがまあ美味しい。それでいて安く、量が多い。学生は丼に大盛りのご飯をかき込み、サラリーマンたちはジョッキをかたむけ、家族連れはたくさんのおかずをつつきあう風景が混在しているのが、とにかく良い。

いつもいるおばちゃんはカタコトの日本語ながら丁寧に接客をしてくれ、お会計が終わったときは必ず目を合わせて「ありがとうございました」と言う。マスク越しからでも分かるほどの笑顔が、ふっくらした頬をよりふっくらさせるのが好きだ。このお店が混んでいる理由は料理だけじゃない気がする。

今日は、黒酢酢豚定食。もうもうと湯気をあげたそれは、大きな豚がゴロゴロと入っており、野菜は飾りばかりに少々。向かいで恋人は冷やし坦々麺と油淋鶏と餃子を食べる。冷静に考えれば、食べすぎだと思う。それでも、わたしはよく食べる人が大好きだ。黙々と箸を口に運ぶ姿が一瞬父に重なったのは、気のせいじゃないと思う。

 

ほんとうに助けられてばかりだ。中華料理にも、おばさんのあの笑顔にも、目の前の愛しい人にも。

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