一生忘れないでいるから

なんで、自分がされた嫌なことを許さなくちゃいけないのだろう。ずっと覚えていたらいけないのだろう。思い出したら「今更」「また」「蒸し返す」と、言われなくちゃいけないのだろう。


傷つける側の人間は、いつだって軽薄だ。その瞬間のことしか覚えていないし、その瞬間のことしか詫びない。「あの時は悪かった」と。

傷つけられた側の人間は、心の中でその瞬間が続く。色、音、香り、言葉、場所、温度。ほんの些細なきっかけで瞬間はいつだって蘇る。生々しく、ついさっきまで命を宿していたのかと思うほどの、瑞々しさで。


ある人にとっては点の出来事でも、ある人にとっては線になり得る。そういう経験がある人とない人とでは、言動がまったく違うものだと思っている。



「あんなこともあったね」って、てめえが笑い話にすんじゃねえぞ。



あったことをなかったことにしたり、見えるけれど取りづらい汚れを見ない振りをしたり、わたしは本当にそういう類のものが嫌いです。